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NTTドコモが目指す人間を拡張するモバイル通信ネットワークとは

2021年09月03日
話し手
  • NTTドコモ
  • 執行役員 6G-IOWN推進部 部長
  • 中村武宏 氏

現在、世界中のモバイル通信キャリアが、普及に向けたさまざまな取り組みを進めている5Gネットワーク。5Gネットワークの高速、大容量、低遅延の通信技術が私たちの社会や生活にもたらす影響とは、どんなものになるのだろうか。今回は、NTTドコモで5G普及の最前線で活躍している中村武宏氏に、5G、さらにその先に控える6Gといったモバイル通信ネットワークが、私たちの社会や生活をどのように変えていくのかについて伺ってみた。

NTTドコモ 中村武宏氏
NTTドコモ 中村武宏氏

海から宇宙空間までどんな場所でも
モバイル通信を可能に

 中村氏は5Gのモバイル通信インフラを、これまでのように人間の生活圏だけでなく、海や空などといった非陸上エリアにも拡張したいと考えている。なぜなら、5Gのモバイル通信インフラを利用するのは、携帯電話やスマートフォンといったコミュニケーションデバイスだけではないからだ。「4Gまでは、人間同士のコミュニケーションを拡張することが目的だったので、通信エリアの拡大については人口カバー率を基準に考えていました。5Gでは、人間同士のコミュニケーションだけでなく、人間とモノ、さらにはモノとモノでの情報のやり取りについても通信の対象になってくると考えています。そうなると、もちろん陸上は100%カバーしなければいけないし、さらには人間が住んでいない海や空のエリア、そして2030年代の実現を目指している6Gの通信インフラでは、宇宙までをもエリアにしなければならないでしょう」。

 モノ同士の情報のやり取りという観点から捉えると、4Gによるモバイル通信でもM2M通信を実現したり、自然環境を観測するなどの目的でIoTセンサーなどによるさまざまな情報交換や情報収集が行われていた。とはいえ、それらのデバイスから送られるデータは数バイト程度の低容量であり、リアルタイム性もそれほど求められなかった。5Gが目指すモノ同士の通信では、例えば自動運転車の制御情報ではリアルタイム性が必要とされ、監視カメラの解析映像では大容量のデータ伝送が必要になってくる。「モバイル通信上のトラフィックは、今後も加速度的に伸びていくかもしれません。そう考えれば、5Gよりさらに高速・大容量を実現しようとしている6Gのインフラも必要になってきます。低遅延に関しても、5Gのミリ秒(1000分の1秒)の遅延は人間だと認識できないのですが、モノの通信では遅延をナノ秒(10億分の1秒)レベルにすることが必要とされるようになっていくと考えていますので、今から6Gを見据えておくことが必要だと思っています」。

5Gのさらなる高度化と6Gに向けたモバイル通信技術の要件
図 5Gのさらなる高度化と6Gに向けたモバイル通信技術の要件
(資料提供:NTTドコモ)

海中から高精細画像を地上に送ったり
地上から水中ドローンを操作することも可能に

 中村氏が語る海でのモバイル通信には、海中も含まれている。そもそも、電波は水の中では減衰が大きいため、海中でのモバイル通信には向いていない。そこで、NTTドコモはNTTとともに、超音波を使った新たな水中無線技術の開発に取り組んでいる。「NTTの研究所では、水中での超音波通信の実験で、1.2Mbpsの通信速度で60mの距離でデータを伝送することに成功しました。今後は、10Mbpsで300m以上飛ばすことを目標に研究を進めていきます」。

 水中でも、水産事業や水中建設などを始め、海底での資源採掘など、さまざまな現場でダイバー同士の無線通信や、水中ドローンとの情報のやり取りなどが求められる。中村氏は「海底を探索する際に、水中から水上までは超音波で船やブイなどにデータを送り、そこから先は5Gによる無線通信で地上に遅延なく情報を送れるようにします。それによって、水中ドローンが撮影した高画質な映像を見ながら、地上から水中ドローンを操作するといった活用も考えられるでしょう」と語る。すでにNTTドコモでは、5Gと水中ドローンを活用した漁場の遠隔監視の実証実験や、養殖場の海中の様子を遠隔地へ伝送するデモンストレーションなども実施している。

海中高速無線通信の活用領域
図 海中高速無線通信の活用領域
(資料提供:NTT)

宇宙旅行での自撮り写真を
その場でツイッターに公開する時代も

 もう1つの非陸上エリアとなる「空」に関しては、静止衛星や低軌道衛星、HAPS(High-Altitude Platform Station:高高度擬似衛星)などの利用を視野に入れて、宇宙空間までをも通信エリアとしてカバーすることを考えているという。

中村武宏氏 インタビュー風景

例えば、HAPSは約20kmの高度で一定の位置で常駐し、陸上では半径50km以上のセルを形成できる。HAPSは低軌道衛星よりも低高度であるため、セル半径によっては片道伝搬時間約0.1ミリ秒程度の低遅延が実現できるという。これによって、災害対策をはじめ5Gおよび6Gで想定されているさまざまな産業向けのユースケースにも、HAPSが活用されると見られている。「現状の通信エリアのままでは、ドローンを操作できる通信範囲も限られているし、飛行機の中では自由に通信ネットワークを利用することもできません。そういったエリアも、5Gでカバーできるようにしなければと考えています。さらに2030年の6G時代まで見据えると、宇宙旅行に行った際にもデータ通信が可能になるパブリックネットワークも準備しておかなければならないでしょう」。

中村武宏氏 インタビュー風景

例えば、HAPSは約20kmの高度で一定の位置で常駐し、陸上では半径50km以上のセルを形成できる。HAPSは低軌道衛星よりも低高度であるため、セル半径によっては片道伝搬時間約0.1ミリ秒程度の低遅延が実現できるという。これによって、災害対策をはじめ5Gおよび6Gで想定されているさまざまな産業向けのユースケースにも、HAPSが活用されると見られている。「現状の通信エリアのままでは、ドローンを操作できる通信範囲も限られているし、飛行機の中では自由に通信ネットワークを利用することもできません。そういったエリアも、5Gでカバーできるようにしなければと考えています。さらに2030年の6G時代まで見据えると、宇宙旅行に行った際にもデータ通信が可能になるパブリックネットワークも準備しておかなければならないでしょう」。

 実際に宇宙でどのようにサービス提供を行っていくのかについてはまだこれからの課題だが、実現すれば宇宙船の中から地球をバックに自撮りした写真をすぐにツイッターで公開できるようになるかもしれない。

HAPSで期待される様々なユースケース
図 HAPSで期待される様々なユースケース
(資料提供:NTTドコモ)

5Gのモバイル通信ネットワークが
人間の感覚まで拡張する

 さらに、中村氏は5G、さらにその先の6Gのモバイル通信ネットワークが拡大していくことで、今以上にさまざまな職種でも場所や時間の制限なく仕事ができるなど、人間の身体を拡張できると考えている。2020年11月には、NTTドコモはコマツと共同で5Gの商用ネットワークを利用し、都内に設置された遠隔操作卓にオペレーターが座り、大分県の現場に置かれたブルドーザーからリアルタイムで送信される複数台のカメラ映像を見ながら、遠隔操作で土砂を掘削する実証実験に成功した。

写真 5Gの商用ネットワークを利用してNTTドコモとコマツが行った鉱山向け大型ICTブルドーザーによる遠隔操作の実証実験
写真 5Gの商用ネットワークを利用してNTTドコモとコマツが行った鉱山向け大型ICTブルドーザーによる遠隔操作の実証実験
(写真提供:コマツ)

 こうした事例が実用化されると、オペレータはテレワークとして自宅からでも建設現場で働けるようになるかもしれない。「数年前に、試験用の5G通信装置を使って遠隔から建設機械を操作する実験を成功させた時は、当時総務大臣だった野田聖子氏も驚かれ、“女性でも操作できるわね”という言葉をいただきました。5Gによって、オフィスワーク以外もテレワークが実践できるようになると多様な雇用機会が創出され、日本が抱えている少子高齢化による人手不足という課題解決の手がかりになるかもしれません」。

中村武宏氏 インタビュー風景

 さらに中村氏は、モバイル通信ネットワークによるその先の人間拡張まで見据えている。それは、自分の感覚や思考などをモバイル通信で送受信したり、他人と共有することだ。「人の感覚や動き、さらには脳波などといった、今まではデータとして収集できていなかった情報まで、5Gで活用できるのではないかと思っています。機械やロボットなどの遠隔制御を緻密にやろうとすると、触覚や力加減の情報までも人間との間で共有させる必要があるのです」。

中村武宏氏 インタビュー風景

 さらに中村氏は、モバイル通信ネットワークによるその先の人間拡張まで見据えている。それは、自分の感覚や思考などをモバイル通信で送受信したり、他人と共有することだ。「人の感覚や動き、さらには脳波などといった、今まではデータとして収集できていなかった情報まで、5Gで活用できるのではないかと思っています。機械やロボットなどの遠隔制御を緻密にやろうとすると、触覚や力加減の情報までも人間との間で共有させる必要があるのです」。

 NTTドコモは、オンラインで出展したMWC(Mobile World Congress)2021において、「5G×BodySharingを活用した遠隔カヤックシステム」を公開した。デモンストレーションでは東京の品川と溜池山王を5G通信で接続し、VRと各種センサーによって遠隔地にあるカヤックをリアルタイムに操縦した。カヤックの操作にはH2Lが開発した、筋変位センサーを活用して人間の手や腕などの身体情報をコンピュータに伝達することで、人やロボット、VR・ARのキャラクターへ身体の動きを伝えるBodySharing技術を利用。マスターシステムから人間がパドルを操作すると、遠隔地にあるカヤック型リモートロボットが実際に受けている、パドルを漕ぐ際の水の重さやカヤックの揺れなどの身体感覚が、リアルタイムにマスターシステム側の人間の身体に再現された。

NTTドコモがMWC2021で公開した遠隔カヤックシステムの構成図 NTTドコモがMWC2021で公開した遠隔カヤックシステムの構成
(資料提供:NTTドコモ)

 中村氏が描く、モバイル通信技術が切り開く未来社会への展望はさらに広がる。「これまでは、物理世界や物質社会をよりよいものとするための通信技術の開発に力を入れてきました。しかし、5Gやその先の6Gが実現する高速、大容量、低遅延のモバイル通信技術の開発では、精神社会までカバーできないかなあと思っています。人間の身体感覚のデータ化から、さらには脳波を検出して感情までデータ化して他人に伝えたり共有することで、人間として本当に幸福な生き方に結びつけることでできるかもしれない。そこまで踏み込むと6Gの領域になるかもしれませんが、今後もモバイル通信技術を活用したさまざまなユースケースを考えていきたいと思っています」。

 SF映画の世界では、究極に進化した人間は言葉ではなく、直接脳に語りかけるテレパシーを使ってコミュニケーションをとったりしている。そんな未来に向けた人類の進化の扉を、5Gさらには6Gのモバイル通信技術が開こうとしているのかもしれない。

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